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福岡高等裁判所那覇支部 平成2年(ネ)27号 判決

控訴人

仲本禎扶

控訴人

仲松洋子

右控訴人両名訴訟代理人弁護士

新垣勉

仲山忠克

被控訴人

有限会社 プランナー沖縄

(旧商号 有限会社ビューカルバーバーカンパニー)

右代表者代表取締役

後上里清

右訴訟代理人弁護士

与世田兼稔

当山尚幸

被控訴人

右代表者法務大臣

田原隆

右指定代理人

大脇通孝

呉屋栄夫

前田勇之助

新垣誠栄

玉城淳

黒島英義

島袋武則

宮里勝順

来間芳雄

知念盛雄

垣花邦夫

松本清隆

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  控訴人らと被控訴人有限会社プランナー沖縄との間で、被控訴人有限会社プランナー沖縄が、昭和五九年八月一八日に控訴人らに対してなした解雇は無効であることを確認する。

3  被控訴人らは、各自、(一)控訴人仲本禎扶に対し金六万九一七六円、控訴人仲松洋子に対し金五万五四一一円、及びこれらに対する昭和五九年三月六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、(二)昭和五九年四月五日以降、控訴人らが訴外有限会社大野バーバー又は同会社の労働契約上の地位を承継する者の従業員としての地位を取得し、かつ、沖縄駐留米軍通行許可証発給機関が控訴人らに就労のための基地内通行許可証を発行するまで、毎月五日限り、控訴人仲本禎扶に対し金一五万二九九四円、控訴人仲松洋子に対し金一四万五〇六八円、及びこれに対する各支払期日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、(三)控訴人らに対し、各金三〇〇万円及びこれに対する昭和五九年二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  第3項につき仮執行宣言。

二  被控訴人ら

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱の宣言(被控訴人国につき)

第二主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決三丁裏五行目の「フォスター内」(本誌五五九号〈以下同じ〉74頁2段20行目)を「フォスター四四七Bビル内」と、同五丁表五行目の「但し」(74頁4段13行目)を「ただし」と、同七丁表八行目の「金三〇〇万円」(75頁2段27行目)を「金二〇〇万円」と、同八丁表四行目の「または」(75頁3段28行目)を「又は」と、同一〇丁裏四行目の「海兵隊員等」(76頁2段21~22行目)を「海兵隊員ら」と、同一四丁表五行目(77頁2段27~28行目)、同一五丁表六行目の各「一旦」(77頁4段5行目)を「いったん」とそれぞれ改める。)。

1  原判決四丁表八行目の「原告らに」(74頁3段11行目)の次に「事前に」を加え、同九行目の「取上げを行った。」(74頁3段12~13行目)の次に「弁明の機会は、処分行為がなされる前に付与されることが絶対的な条件であって、本件のようにパス取上げ行為の終了後に付与された弁明の機会は、もはや適正手続の保障としての意義を有するものではなく、したがって、控訴人らがこれを放棄したからといって、本件パス取上げ行為の適法性を根拠付けることにはならない。」を加える。

2  原判決一四丁裏七行目の「薄いとしても」(77頁3段18行目)を「薄く、本件パスがOSIの係官によって強制的に返還させられたとしても」と改める。

3  原判決一四丁裏一一行目(77頁3段24行目)の次に行を改めて次のとおり加える。

「7 本件営業所における不自然な売上金額の減少及び現金取扱約款に違反する方法での不合理な現金取扱いの事実などから、OSIによる本件営業所への立入調査当時、控訴人ら従業員に売上金着服の濃厚な嫌疑が存在し、現在においても右嫌疑は解消されていない。控訴人らからパスを返還させたのは、必ずしも控訴人らに売上金着服の不正があったからではなく、その疑いを十分に抱かせるに足りる不当な現金の取扱いをしていたことによる。この客観的に売上金着服の疑いを抱かせる不当な現金取扱いは、明らかに契約条項に違反し、基地内の規律保持の要請にも反するものである。かかる不当な現金取扱いを反復継続して行い基地の治安及び安全を脅かすおそれのある控訴人らに対し、基地管理権者が基地内への立入りを認めるに好ましからざる者と判断したことは当然であり、このような判断に基づいて控訴人らからパスを返還させたことは、基地管理権者として正当な行為であったというべきであり、基地管理権の裁量を濫用ないし逸脱した違法はない。

8 なお、控訴人らは、控訴人らの基地内での活動を規制する正当な事由が存したか否かは諸機関労務協約の規定に基づき又は同規定を準用ないし類推適用して判断すべきである旨主張するが、諸機関労務協約が適用される「従業員」とは、諸機関が使用するために日本国政府によって雇用された者をいうのであるから、被控訴人会社に雇用された控訴人らは諸機関労務協約の「従業員」であるということはできないし、諸機関労務協約が適用されるべきでないことも明らかである。基地内で就労する日本人労働者として外観が類似するといっても、その法的地位において、控訴人らと諸機関労務協約の「従業員」とは本質的に異なるものがある。すなわち、控訴人らの雇用主は被控訴人会社であり、「従業員」の雇用主は日本国政府であって、それぞれの法的地位について配慮すべき者はそれぞれの雇用主であるから、控訴人らの法的地位について配慮すべきは被控訴人会社であって、日本国政府でもなければ基地管理権者でもない。控訴人らの米軍基地内における被用者としての法的地位について、基地管理権者は何らの関係もなく、ただ基地管理権を行使する者としての米軍と基地管理権の行使を受ける者としての控訴人らの関係だけである。したがって、控訴人らについて諸機関労務協約が類推適用されるかどうかの当否を論じてみても意味がない。」

4  原判決一五丁裏三行目(77頁4段19行目)の次に行を改めて次のとおり加える。

「(三) 原判決は、控訴人らによる売上金着服の嫌疑は十分に存したというが、海兵隊員らが目撃した事実は、従業員らにおいて、OWAXと被控訴人会社との委託契約に違反する現金取扱いがなされていることの証拠とはなりえても、直ちに売上金着服の証拠とはなりえない。売上金をレジスターに打刻しなかったことなどが着服の嫌疑を発生させたとしても、それは主観的なものにすぎず、客観的に裏付けされた十分な嫌疑とはいい難い。

(四) CIDによる本件パス取上げ行為は、売上金の着服横領の嫌疑でなされたところ、右事実はついに立証されなかったのであるから、パス取上げの根拠はなくなったのであり、取り上げられたパスは控訴人らに返還されるべきである。本件パス取上げの根拠となった事実(売上金着服の嫌疑)を無視し、これと直接関係のない契約違反の事実をとらえ、パス不返還の違法性を否定することはできない。実害のない単なる形式的な違反行為にすぎない現金取扱いの約定違反行為を理由に就労不能の状態を継続させ、実質的に解雇と同一の結果をもたらすパス不返還を正当化することは、行為と処分との権衡を著しく失するものである。」

5  原判決一六丁表一行目の「基づき」(78頁1段2~3行目)の次に「又は同協約を準用ないし類推適用して」を加える。

6  原判決一六丁表六行目の「したがって」(78頁1段10行目)の前に「米軍基地内において、厳格な秩序の維持と規律の保持が要請されるとしても、それは絶対的なものではない。米軍当局の本件パス取上げは、保安上の危険行為及び軍紀の維持のかく乱行為のいずれをも理由としたものではない。したがって、労働者の就労を不能とし実質的に解雇を意味する本件パス取上げないし不返還が適法といいうるためには、控訴人らの労働権を剥奪してもやむをえないほどに、控訴人らが基地内の秩序維持や規律の保持に重大な支障を生じさせる違反行為を行った場合でなければならない。しかるに、控訴人らの行為は、レジスターの打刻に関するOWAXと被控訴人会社との間の契約条項に違反するのみであり、実害の発生を伴わない形式的な違反行為にすぎないのであるから、基地内の秩序維持や規律の保持に重大な支障を生じさせなかったことは明白である。」を、同行の「パス取上げ」の次に「ないし不返還」をそれぞれ加える。

7  控訴人らの新たな主張

(一)  OWAXと米海兵隊との法的関係

アメリカ合衆国国防省は、歳出外予算により運営される機関として、陸軍及び空軍販売業務機関(以下「AAFES」という。)を有し、同機関は、アメリカ合衆国国防省の管轄下にあって、陸軍と空軍の共用管理の下に、陸軍及び空軍への販売業務活動を行っており、OWAXは、AAFESの沖縄支部である。米海兵隊も、AAFESと同様の独自の販売業務機関を有しているが、沖縄には、同機関の支部が存しない。

右事情のため在沖縄海兵隊は、OWAXとの間で「支援協定(ISSA)」を締結し、OWAXから、理髪店業務を含む種々のサービス業務の提供を受けている。右支援協定によると、在沖縄米海兵隊は、基地内でOWAXが営業する権利を認め、OWAXは、在沖縄米海兵隊に対し本件理髪店業務サービスを提供する法的義務を負担するものとされている。

(二)  0WAXと理容業務請負業者との関係

OWAXは、右支援協定上の法的義務を履行するため、支援業務を自ら行ったり、又は民間業者に支援業務を委託するが、本件理髪店業務は、復帰前から、OWAXが民間業者に委託して行わせてきたものである。被控訴人会社は、OWAXと本件契約を締結した業者であるから、本件契約及び支援協定により認められたOWAXの基地内営業権に基づき、基地内において理髪店業務を行う権利を有するものであり、他方、在沖縄米海兵隊は支援協定により、OWAXは本件契約により、それぞれ被控訴人会社及びその従業員に基地内において理容委託業務活動を行わせる積極的義務を負うものである。

右権利及び義務は、当然に、被控訴人会社及びその従業員が基地内に出入りする権利、出入りさせる義務が存することを前提又は包含するものである。したがって、在沖縄米海兵隊は、正当な理由が存しない限り、控訴人らが有するパスを取り上げる権利を有しないし、OWAXは、本件契約により、受託業者の従業員が基地内に出入りできるよう積極的に支援する契約上の法的義務を負うものである。

(三)  パス発給基準

在日米軍司令官は、指令五五〇〇―七Jにより、在日米海軍施設内に立入りする者についてのパス発行基準を定めており、右指令によると、パスの発給基準は、米軍基地の「治安上」の理由から、パス発給の基準が定められている。右指令に基づき発せられたと思われる、基地司令官から海兵隊基地沖縄SDバトラーへの基地命令一二三〇〇―一Dによると、国防省予算外資金で雇用される現地人及び民間土建契約業者の現地人の雇用とコントロールは、次のようになすべきものと指示されている。

(1) OWAXに直接雇用される日本人従業員については、諸機関労務協約により、人事管理を行う。

(2) 契約業者に雇用される日本人従業員については、諸機関労務協約で規制されないが、海兵隊基地内で契約仕事を遂行するためには、通行パスが必要であるので、契約を発注した事務所(スポンサー)は、契約業者に指示してMCB労務管理事務所でパス発給の手続を行わせる。

(3) 契約業者の雇用員のパスに関しては、直接的にはMCB労務管理将校が管理する。

右基地命令一二三〇〇―一Dによると、控訴人らのパスに関しては、直接的にはMCB労務管理将校が管理責任を有するものとされているが、その発給基準については、特別の指示はない。パス発給基準については、日本国に雇用されて米軍や諸機関に提供される労働者も、また、本件のように契約業者に雇用される労働者も、その性質上、同一のものと解するのが相当であるから、前記(三)の「治安上」の理由という基準により、同一に処理されると解するのが相当である。右「治安上」の理由に基づく具体的基準の内容は、諸機関労務協約の付属文書5「保安」に掲げられた「保安上危険であるとみなされるもの」をいうのであるから、本件パス取上げ又はパス不返還は、正当な理由に基づかない違法処分として、不法行為又は債務不履行を構成し、被控訴人国は、民事特別法により米軍に代わって本件損害賠償義務を負担すべきものである。

8  控訴人らの新たな主張に対する被控訴人国の反論

(一)  OWAXと米海兵隊との法的関係に対する反論

支援協定は、OWAXが米海兵隊職員に対し種々のサービスを提供することにより、在沖縄米海兵隊を支援し、これに協力することを内容とするOWAXと在沖縄米海兵隊間の取決めであり、両者間に法的な権利義務関係を発生させる契約ではない。すなわち、在沖縄米海兵隊もOWAXも共にアメリカ合衆国国防省という組織を構成する下部機関であって、支援協定は、下部機関で支援協力関係を約束するところの取決めに過ぎないのであり、このことは、支援協定の内容が、OWAXは在沖縄米海兵隊に対し、商品売買・映画娯楽・理髪店等のサービスを提供する旨の事項しか定めていないことからも明らかである。

(二)  OWAXと理容業務請負業者との関係に対する反論

(1) OWAXが、被控訴人会社に対し同社の従業員が基地内において理容業務活動を行うことができるようにする契約上の義務を有するとはいえても、契約関係にない同社の従業員に対し直接右のような義務を負わないことは明らかであるし、同様に在沖縄米海兵隊が、支援協定の相手方でない被控訴人会社及びその従業員に対し、右協定上の責任を負わないことも当然のことである。

(2) OWAXの在沖縄米海兵隊職員に対するサービス等の提供活動や被控訴人会社及びその従業員の基地内への出入り並びに基地内での理容業務活動は、施設管理の最高責任者である海兵隊基地司令官が行使する在日米軍の基地管理権に服し、基地管理権者の許可のもとになされるものであるから、前記支援協定による協定事項やOWAXと被控訴人会社との契約上の権利が在日米軍の基地管理権に優先し、それを制約することはあり得ない。

(三)  パス発給基準に対する反論

在日海軍司令官指令五五〇〇―七Jは、在日米海軍施設内に立ち入る者について、パス発行基準を定めたものではない。すなわち、右指令の件名は「在日米海軍施設立入者に対するセキュリティ(保安)必要性について」であり、目的は「在日米海軍施設立入者に対する最小限度のセキュリティ(保安)確保のために」というもので、その内容は、在日米海軍施設立入者について身元確認対象者の範囲、方法等について規定したものである。

控訴人らの主張では、「治安上」の理由のみがパス発行の基準ということになるが、基地管理権とは、米軍がその意思に反して行われる米軍以外の者の施設・区域への立入り及びその使用を禁止し得る権能並びに施設・区域の使用に必要なすべての措置を執り得る権能であるから、パス発行の基準すなわち基地内への立入りの許否は、治安上の理由のみで、判断されるものではなく、基地管理権者の広範な裁量によりなされるものである。

第三証拠

本件記録中の証拠目録(原審及び当審)記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴各請求は理由がなく、いずれも棄却するべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決二〇丁裏九行目(79頁1段30行目)及び同二四丁裏八行目(80頁2段5行目)の各「一旦」を「いったん」と、同二五丁表二行目の「一二日付」(80頁2段17行目)を「一二日付け」とそれぞれ改める。)。

1  原判決二〇丁表一一行目の「原告らは」(79頁1段15行目)から同一二行目の「放棄していること」(79頁1段16行目)までを「弁明があればOSIの事務所でこれを聴く旨告げたが控訴人らはこれを拒否したこと(なお、パスの取上げにつき、所持者から事前の弁解を聴かなければならないとする定めはない。)、一客ごとに売上金をレジスターに打刻することによって初めて売上金の適正な管理がなされ得るのであって、控訴人らのように、翌日の売上に計上する予定であったといっても、締切り後の売上金をレジスターに打刻せず売上実績報告書にも記帳しなければ、右売上金は、控訴人らの意思により領得しようと思えばいつでも領得し得る状態に置かれていたのであるから、」と改める。

2  原判決二〇丁裏一行目の「嫌疑が」(79頁1段19行目)の次に「客観的に」を加える。

3  原判決二一丁裏一〇行目の「行為があったこと、」(79頁2段26行目)の次に「控訴人らの売上金着服横領の嫌疑はある程度解消したとはいうものの、前記のような控訴人らの行為は、単に本件契約に違反するだけでなく、基地内のサービス業務について、現金の管理が適正に行われていないということになって基地内の規律保持にも影響があること、」を加える。

4  原判決二二丁表七行目の「なお、」(79頁3段8行目)から同裏二行目の「解されない。」(79頁3段19行目)までを次のとおり改める。

「 控訴人らは、諸機関労務協約は、控訴人らに対しても適用されるべきである旨主張する。

しかしながら、地位協定一二条四項には「現地の労務に対する合衆国軍隊及び第一五条に定める諸機関の需要は、日本国の当局の援助を得て充当される。」と規定されており、控訴人らと被控訴人国との間で成立に争いのない甲第二五号証、第三〇号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、右の目的を達成するために、地位協定一五条に規定する諸機関に代わり、かつ、在日合衆国軍司令官によって代表されるアメリカ合衆国政府と日本国政府防衛施設庁長官によって代表される日本国政府との間において諸機関労務協約が締結されていること、右協約において「従業員」とは、諸機関が使用するために防衛施設庁によって提供される日本国に居住する合衆国人でないすべての民間人であることが認められるのであって、右協約が適用される従業員とは、諸機関が使用するために日本国政府によって雇用された者をいうのであるから、被控訴人会社に雇用された控訴人らは、右協約の従業員でないことは明らかである。したがって、控訴人らに対して右協約は適用されないから、控訴人らの右主張は採用することができない。

さらに、控訴人らは、諸機関労務協約が控訴人らに対し準用ないし類推適用されるべきである旨主張する。

しかしながら、右協約における従業員の雇用主は被控訴人国であり、控訴人らの雇用主は被控訴人会社であって、その法的地位はそれぞれ異なっているから、控訴人らの法的地位について配慮すべき者は、雇用主である被控訴人会社であって、被控訴人国でもなければ合衆国政府でもない。米軍と控訴人らとの関係においては、基地管理権を行使する者としての米軍と基地管理権の行使を受ける者としての控訴人らとの関係だけである。したがって、基地内で就労する日本人労働者として外観が類似しているといっても、雇傭関係における法的地位は諸機関労務協約の従業員とは本質的に異なるから、控訴人らに対し右協約を準用ないし類推適用すべきではないというべきであり、控訴人らの右主張も採用することができない。」

5  控訴人らは、支援協定に基づきOWAXは基地内で営業する権利を有し、在沖縄米海兵隊に対し理髪店業務サービスを提供する法的義務を負担する旨主張するけれども、控訴人らと被控訴人国との間で成立に争いのない(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、AAFESは、アメリカ合衆国国防省の管轄下にあって、米国陸軍及び空軍の共同管理の下にその隊員にサービス業務等の提供を任務とする機関であるが、OWAXは、その沖縄支部であって、地位協定一五条一項(a)に基づき在沖縄米軍基地内で営業活動をしていること、米海兵隊もAAFESと同様の機関を有しているが、沖縄においては、業務を取り扱っていないため、在沖縄米海兵隊はOWAXとの間で支援協定を締結し、OWAXからサービス業務等の提供を受けていること、在沖縄米海兵隊及びOWAXは、共にアメリカ合衆国国防省の下部機関であって、支援協定は、OWAXが米海兵隊員に対し種々のサービスを提供することにより在沖縄米海兵隊を支援し、これに協力することを内容とするOWAXと在沖縄米海兵隊間の支援協力関係を約束するところの取決めにすぎず、両者間に法的な権利義務関係を発生させるものではないことが認められるから、控訴人らの右主張も採用することができない。

さらに、控訴人らは、OWAXは、被控訴人会社との本件契約により、同社及びその従業員に対し、基地内において理容業務活動を行わせる契約上の義務を有するところ、右義務には当然同社及びその従業員を基地内に出入りさせることも含まれるのであり、在沖縄米海兵隊は、OWAXに対し支援協定により基地内で営業させる法的義務を有するから、その義務を履行するため、被控訴人会社及びその従業員に対して、その従業員を基地内に出入りさせ、かつ、理容業務活動を行わせる法的義務を有する旨主張する。

しかしながら、本件契約は、OWAXと被控訴人会社との間に締結されたものであるから、OWAXが契約関係にない控訴人らに対し、直接控訴人らにおいて基地内で理容業務活動をできるようにする契約上の義務を負わないことは明らかである。また、支援協定は、在沖縄米海兵隊とOWAX間の支援協力関係を約する取決めであるから、在沖縄米海兵隊が、支援協定の相手方でない被控訴人会社及び控訴人らに対し、支援協定上の責任を負わないことも明らかである。したがって、控訴人らの右主張も採用することができない。

また、控訴人らは、在日米海軍司令官指令五五〇〇―七Jは、在日米海軍施設内に立ち入る者について、「治安上」の理由からパス発行基準を定めており、右「治安上」の理由に基づく具体的基準の内容は、諸機関労務協約の付属文書5「保安」に掲げられた「保安上危険であるとみなされるもの」をいうものであるから、本件パス取上げ又はパス不返還は、正当な理由に基づかない違法な処分である旨主張する。

しかしながら、控訴人らと被控訴人国との間で(証拠略)によれば、在日海軍司令官指令五五〇〇―七Jは、在日米海軍施設内に立ち入る者について、最小限度の保安上の必要条件を設定し、身元確認をする対象者の範囲・方法等について規定したものであって、パスの発行基準を定めたものではないことが認められ、また、諸機関労務協約を控訴人らに対して適用又は準用ないし類推適用することができないことは前示のとおりであり、かつ、基地内への立入りの許否は、治安上の理由のみで判断されるものではなく、基地管理権者の広範な裁量によりなされるものであるから、控訴人らの右主張は採用することができない。

二  よって、原判決は相当であって、本件各控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項によりいずれもこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川賢二 裁判官 宮城京一 裁判官 喜如嘉貢)

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